遺言執行者には、特段の事情のない限り、相続させる旨の遺言がその目的としていた当該不動産を管理する義務はなく、また、これを相続人に引き渡す義務を負わない

最2小判平成10年2月27日 この点、参考になるのが、

最2小判平成10年2月27日(民集52巻1号299頁)です(以下、平成10年判決)。

平成10年判決は、特定財産承継遺言に関するものですが、その射程は遺贈の場合にも及ぶとされています(平成10年判決判例解説233頁)。

事案の概要

  被相続人は不動産を有していて、相続人として甲、乙2人の子がいました。 当該不動産について「甲に相続させる」旨の遺言がなされたのですが、乙はその不動産について被相続人から賃借権の設定を受けていたと主張しました。当該遺言には、遺言執行者がいたので乙は遺言執行者を相手として賃借権確認請求訴訟を起こしました。 この場合において、そのような訴訟をする相手方として遺言執行者がふさわしいのか(これを被告適格といいます。)が争われました。 そして、

  平成10年判決は、以下のとおり述べ、賃借権確認請求訴訟をする相手方としては遺言執行者ではなく、受益相続人であると判断しました。

  平成10年判決 特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言をした遺言者の意思は、右の相続人に相続開始と同時に遺産分割手続を経ることなく当該不動産の所有権を取得させることにあるから…その占有、管理についても、右の相続人が相続開始時から所有権に基づき自らこれを行うことを期待しているのが通常であると考えられ、右の趣旨の遺言がされた場合においては、遺言執行者があるときでも遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者は、当該不動産を管理する義務や、これを相続人に引き渡す義務を負わないと解される。そうすると、遺言執行者があるときであっても、遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産についての賃借権確認請求訴訟の被告適格を有する者は、右特段の事情のない限り、遺言執行者ではなく、右の相続人であるというべきである。 つまり、

  遺言執行者には、特段の事情のない限り、相続させる旨の遺言がその目的としていた当該不動産を管理する義務はなく、また、これを相続人に引き渡す義務を負わないとしました。従って、それをすべきは受益相続人だということです。 ですから、平成10年判決を前提とすれば、次のような行為をするのも、遺言執行者ではなく受益相続人ということになります(平成10年判決判例解説230頁以下)。 相続人に対抗できる賃借人が目的不動産を占有している場合において、賃料の受領や賃料増額請求等 目的不動産の不法占拠者に対する明渡請求訴訟の提起 被相続人が生前に提起した賃貸借契約解除を請求原因とする明渡訴訟の承継