金利計算の端数処理についての考察(タイトルはAIが考えました)

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金利及び弁済金額計算に関する法律と実務・付録元利計算くん」抜粋

                      (平成11年発行、出版)

                   株式会社 頭脳集団

                                                                      弁護士 五右衛門

                      

 

六 金利計算における端数計算について

1 端数計算の合意

  金利計算を行うについて、例えば1円未満の金額について、四捨五入するのか、切
り捨てするのか、切り上げ計算するのか、国等が関係する場合に特別な規定が設けられ
ている場合を除き、消費貸借契約の場合等を定めた法律はない。
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法令・・国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律2条
   国及び公庫等の債権で金銭の給付を目的とするもの又は国及び公庫等の債務で金
銭の給付を目的とするものの確定金額に1円未満の端数があるときは、その端数金額を
切り捨てるものとする。
   国及び公庫等の債権の確定金額が1円未満であるときは、その金額を切り捨てる
ものとし、国及び公庫等の債務の確定金額が1円未満であるときは、その金額を1円と
して計算する。
   国及び公庫等の相互の間における債権又は債務の確定金額が1円未満であるとき
は、前項の規定にかかわらず、その金額を切り捨てるものとする。
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  消費貸借契約の当事者が契約のなかで、右のような計算の方法について合意してお
れば、右の合意に従って計算すれば足り、何らの問題も生じない。
  しかしながら、このような合意がなされることは殆どないのが実情である。

2 債務の現金支払い時における端数金額処理の方法

  ただ、当事者間でこのような端数処理計算についての合意をしていなかった場合に
おいても、金利計算を行うについて「1回限り」の金利計算を行い、債務を現金支払い
する場合においては、法律的に解答をだすことができる。
  「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」3条は、債務の現金弁済について、
1円未満について「四捨五入の原則」を定めていることから、四捨五入の法則に従い計
算すれば足りるからである。
  従って、借入金について、1回限りの金利計算を行い、右の金利計算に基づく金
利等を現金で支払う場合には、「四捨五入の法則」に従い計算して支払えば足りる。
  なお、金利計算に関し、このような四捨五入計算すべき場合においても、一律に「
切り捨て計算」している例が多いように思われる。
  消費貸借契約等貸金契約に基づく場合においても、現実に現金決済をする場合にお
いては、理論的には、現実の弁済金額を算出する最終の計算時においては、四捨五入計
算するのが正当ということとなるように思われる。
  1回限りの計算の場合は前述したとおりであるが、例えば3回の計算をして現金弁
済金額を算出する場合、最初の2回は単に金利計算にとどまることから、後述のとおり
「切り捨て計算」をすることとなるが、最終の3回目の計算の場合には「四捨五入計
算」をすることとなるように思われる。
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法令・・「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」3条
  債務の弁済を現金の支払いにより行う場合において、その支払うべき金額(数個の
債務の弁済を同時に現金で行う場合においては、その支払うべき金額の合計額)に50
銭未満の端数があるときは、又はその支払うべき金額の全額が50銭未満であるとき、
その端数金額又は支払うべき金額の全額を切り捨てて計算するものとし、その支払うべ
き金額に50銭以上1円未満の端数があるとき、又はその支払うべき金額の全額が50
銭以上1円未満であるときは、その端数金額又は支払うべき金額の全額を1円として
計算するものとする。但し、特約がある場合には、この限りではない。
  前項の規定は、国及び公庫等(国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律
規定する国及び公庫等をいう)が収納し、又は支払う場合においては、適用しない。 
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  右の法律は、「債務の弁済を、現金で支払う場合」の1円未満について四捨五入の
原則」を定めたものであり、金利計算についての法則を定めたものではない。

3 端数処理計算方法について

  金利計算をするについて、特定の時期・期間において計算を一度終結させ、右の計
算結果を前提として、再度の計算等を行う必要がある場合には(通常の金利計算は、こ
のような作業を反復する場合が多い)、事実上、いずれかの単位において、四捨五入す
るのか、切り捨てするのか、切り上げ計算するのか、を決定しなければ計算を続行、継
続できないこととなる。
  これについて定めた法律はない。
  これについて定めた法律がないということから、前記の法律を準用ないし類推適用
し「四捨五入の原則」を採用するという考え方も当然あり得る。しかしながら、右の法
律は「金銭債務支払い」という一般的な事項を定めた法律であって、金利については利
息制限法、貸金業法、出資金等の取り締まりに関する法律等「金利額の許容する上限等
を定めた法律」がある。「四捨五入の原則」を金利計算に使用し、これらの法律に違反
することは許されない。金利を制限する法律の許容限度の利率を使用して計算し、「四
捨五入の原則」を採用して計算すると、場合により、わずか1円であっても前記金利
限を定めた諸法令に違反する結果を導きだす事態を招来する結果となっては不都合であ
る。計算反復回数が多ければ多いほど金利制限諸法令違反の金額が増大する可能性があ
る。
  このように考えると、小数点以下について可能な限りの精微な計算が、反復計算す
るうえで事実上困難であるという現状では「四捨五入」や「切り上げ」という計算方法
はとれないということとなり、消去法で「切り捨て」計算方法を取らざるを得なくなっ
てくる。
  更に、もう一点便宜上の根拠がある。
  金銭債務の弁済を裁判上で請求するについては、債権者において、正確な金利計算
をしたうえ、その支払いを求める金額を裁判所に呈示しなければ勝訴判決を得ることが
できないという民事訴訟法上の主張、立証責任からすれば、裁判上の請求をする債権者
は裁判所に対し、「法律的に正当な金額」の呈示をしなければならない点があげられる。
  前記のように、四捨五入計算することについて法律上の根拠があればよいが、そう
でない場合には「切り捨て計算」せざるを得なくなる。何故なら、切り上げ計算すれば
計算金利が僅かであっても不当に計算上高額となって債権者の請求する金額の一部が法
律上理由がないこととなり、また四捨五入計算をした場合、右四捨五入計算をした計算
結果が法律上正当か否か不明となり得るからであり、法律上正当か否かが不明であれば
裁判所は右計算結果を採用してくれないこととなるからである。
  即ち、債権者は正しい計算結果を提示することができない場合において、勝訴判決
を得るためには、正当な計算結果を精微な計算方法で明らかにできない場合は、正当な
計算結果よりは少なめの計算を提示して判決を求めざるを得なくなる。即ち、正しい計
算数値が事実上算出できない場合には、いずれかの単位において切り捨て計算を行い、
その計算結果が厳密に正しい計算数値より少額であり、債権者として債務者に支払いを
求める金額が法律上正当な金額の範囲内であると言わざるを得なくなる。よって「切り
捨て計算」が現時点では妥当と考える。

4 切り捨ての単位

  切り捨ての単位については、小数点以下いずれの単位で切り捨ててもよいこととな
る。要するに、正確な計算より低額となればよいこととなる。

5 判決による計算

  仮に貸金請求訴訟を提起した貸し主である原告が「四捨五入計算」をして金員の支
払いを求めたとして、裁判所はどのように判断すべきか。
  裁判所の求めに応じて、貸し主原告が切り捨て計算にし直してくれれば右の計算に
従って判決すれば足りるが(弁論主義・処分権主義)、貸し主原告が四捨五入計算を固
持した場合はどうするか。
  裁判所としては、四捨五入計算の結果に従って判決をすることはできず、正確な計
算をし直さなければならない。
  それが困難である場合には、いずれかの単位で切り捨て計算して判決をせざるを得
ないこととなる。
  いずれの単位で切り捨て計算することが許容されるかという問題であるが、判決で
求める正確な訴求金額を主張、立証すべき主張、立証責任は債権者にあるということ及び
通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」等一円未満の単位についての端数処理を
認めている法律等の趣旨から、便宜上「1円未満の単位」を切り捨て計算することもや
むを得ないと考える。
  このような裁判上の処理が是認されるならば、裁判外における金利計算も、その局
面は異なるものの、右同様「1円未満の単位」について切り捨て計算することも是認さ
れると考える。
  以上のとおり、「一円未満の単位」において切り上げ、四捨五入、切り捨てのうち
「切り捨て計算」を採用するべきであると考える。

 

6 弁済供託の場合の端数処理について

 

  前記のとおり、債権者側から検討すれば、「端数処理は切り捨て処理」が妥当ということとなる。

  では、債務者側の立場の場合、どうなるのか。

  債務者側で、前記のような端数処理について検討すべき事項、例えば立証責任などが問題となり得るのは、債務者側が債権金額を計算、立証しなければならない局面であり、そのような局面は、債務者が行う「弁済供託」のような場合が想定される。

  債務者が行う弁済供託の場合、債権金額を不足なく供託する必要があることから、一円未満の端数金額がでた場合、これを一円として切り上げて供託しないと、債務金額を不足なく供託したことにならないことから、結局、「切り上げ」処理をすべきということとなる。 

 

        弁済供託の場合に、前記「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」3条を引用して「四捨五入計算でよい」と述べている弁護士らがいるが、これは明らかに誤りである。この法律は、前記のとおり、「債務の弁済を、現金で支払う場合」の1円未満について四捨五入の原則」を定めたものであり、金利計算についての法則を定めたものではないからである。

 

       法務省が弁済金額計算のためにダウンロード提供している「遅延損害金計算ソフト」は、供託金額として、計算結果を小数点以下4桁表示しているのみで、端数処理をしていない。

  これは、弁済供託の場合の端数処理を定めた「明文の法律がない」ことによるものと思われる。「四捨五入」でよいとする前記弁護士の見解が誤りであることを裏付けるものでもあると考えられる。