裁判規範と規範規範

川島武宜法社会学における法の存在構造245頁(昭和25年,日本評論社)。

「国家法のはじめの形態は,裁判規範たる手続法,刑法,のちにいたっての一定の限度での私法であった。・・・法律学は元来このような裁判上の必要に奉仕するための学問として発達したのであり,したがって法律学はその場合には,対象たる裁判規範を見失うことなく,裁判法法学としての性格をはっきりと意識していた。たとえば,ローマの法律学は,所有権や契約そのものについてではなく,所有権や契約に基づく訴権(アクチオ)についての学問であった。ところが近代の法律学は,裁判における手続法と実体法の分離の原則のうえに成り立つところの実体法,すなわち,厳密にいえば司法的実体法を対象としており,その結果,法律学がその対象としているところの民法や商法が,裁判規範ではなく行為規範であるかのごとき外観を呈するに至った。かようにして行為規範と裁判規範が明確に区別せられないようになり,しばしば両者は漠然と同視される。」