簡裁が略式命令請求を拒否した事案-大阪奥村弁護士HPより

強制わいせつ罪で逮捕して、暴行罪で略式起訴したら、簡裁が略式命令請求を拒否した事案

 林道春簡裁判事は、27期で元名古屋高裁部総括判事
 わいせつ目的の暴行は強制わいせつ(未遂)罪の一部であって、暴行罪にはならないという論点もありますが、強制わいせつ罪は簡裁の管轄外になります。

http://www.e-hoki.com/judge/2298.html
林道春
所属 岐阜簡裁判事
異動履歴 H.29. 3.25 ~ 岐阜簡裁判事
H.27. 4. 1 ~ H.29. 3.24 一宮簡裁判事
H.27. 2. 9 定年退官
H.23.12.19 ~ H.27. 2. 8 名古屋高裁部総括判事
H.22. 6.23 ~ H.23.12.18 津地家裁所長・津簡裁判事
H.20.10.31 ~ H.22. 6.22 山口地裁所長・山口簡裁判事
H.18. 4. 1 ~ H.20.10.30 名古屋高裁判事
H.13.11. 4 ~ H.18. 3.31 岐阜地家裁部総括判事
H.10. 2.10 ~ H.13.11. 3 名古屋地裁部総括判事
H. 9. 4. 1 ~ H.10. 2. 9 名古屋高裁判事
H. 6. 4. 1 ~ H. 9. 3.31 東京高裁判事
H. 4. 4. 1 ~ H. 6. 3.31 名古屋高裁判事

刑訴法
第四六三条[通常の審判]
1 第四百六十二条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
・・・
条解刑事訴訟法
1)略式命令をすることができないもの
略式命令の請求が法令上の方式に違反している場合のほか,形式的および実体的訴訟条件が具備していない場合,事件が罪とならない場合,および差し出された証拠資料によっては犯罪事実が合理的な疑いを超えて証明されたと認められない場合などをいう。
2)相当でないもの
略式命令の請求としては適法であるが,事案複雑で公判手続において慎重な審理をするのを相当と認められる場合,訴因・罰条の追加・撤回.変更を要する場合,量刑について検察官と著しく意見を異にする場合など,略式命令をすることが不相当と認められる場合をいう(461条注5参照)。
3)通常の審判手続への移行
裁判所は,略式命令請求が許されないものまたは不相当なものと認めたときは,略式手続によることなく,通常の事件として公判手続によって審理しなければならない。この場合には,別段その旨の決定をする必要はなく, また,公訴提起そのものは効力を失うわけではないので,そのまま通常の手続に移行することになる。まず第1に,起訴状謄本を被告人に送達することを要するから(4項.271),検察官に対し起訴状謄本の提出を促す意味で,検察官にその旨の通知をしなければならない。
・・・
略式手続の理論と実務
1 略式命令をすることができないとき
「略式命令をすることができないものである」とは,略式命令をすることが適法でない場合をいう。
(1) 略式命令請求の要件を具備していない場合
略式手続の告知手続書及び申述書の添附(第2章第1,第2)
(2) 形式的訴訟条件を具備していない場合
ア被告人に対する裁判権(第3章第1)
イ被告人の当事者能力
ウ同一事件について他に公訴の提起がないこと
エ公訴の取消しがあった事件については法340条の要件
親告罪については告訴があること
カ公訴提起の手続が有効であること(第2章第2)
(3) 実体的訴訟条件を具備していない場合
ア事件について既判力が生じていないこと
イ犯罪後の法令により刑が廃止されていないこと
大赦がないこと
エ公訴時効が完成していないこと(法250条)
(4) 公訴事実が要件を具備していない場合
ア事件が罪とならないとき
イ証拠が不十分で犯罪の証明がないとき(第3章第6)
2 略式命令をすることが相当でないとき
「略式命令をすることが相当でないものである」とは,略式命令請求自体は適法であるが,略式手続によることが相当ではなく,通常の公判手続により審理すべき場合をいう。
(1) 事案が複雑で,公判手続における通常の審理を相当と認めるとき
(2) 訴因・罰条の追加撤回又は変更を要するとき(第3章第5)
(3) 多くの日時を要する事実の取調べを必要とするとき
(4) 100万円以下の罰金又は科料以外の刑を科すべきものと認めたとき
(5) 量刑について検察官と著しく意見を異にするとき

 会同の資料なんて引用されても、入手できません

略式手続(七訂第二補訂版)裁判所職員総合研修所監修
p64
第4節 略式命令請求の拒否
1 要件
略式命令の請求があった場合において,裁判所は,次のいずれかの事由があるときは,通常の手続に従って審判しなければならない(法463)。
(1)事件が略式命令をすることができないものであるとき。
(2)事件が略式命令をすることが相当でないものであると思料するとき。
(3)検察官が法461条の2に定める手続をしていないとき。
(4)検察官が法462条2項に違反して略式命令を請求したとき。
何が「略式命令をすることができないもの」であり, また,何が「略式命令をすることが相当でないもの」に当たるかは, 「請求事件の審査」(第3章第1節29ページ)に関連して前に述べた。
1人の簡易裁判所判事の勤務する裁判所において,他に裁判官のてん補を求めることが困難であり,正式裁判の申立てがあるとその処理に困るような事情があるからといって,法463条にいう「略式命令をすることが相当でない」と解することはできない(注)。
(注) 刑裁資67号323ページ参照



p29
4相当性の審査
略式手続の請求を審査するに当たっては, 「略式命令をすることができないもの」(不適法)のほか, 「略式命令をすることが相当でないもの」(不相当)であるかどうかについても審査しなければならない。この相当性の審査は,形式上一応適法とされる略式命令の請求について行われる。例えば,
(1)事案が複雑で,公判手続において慎重な審理をするのを相当と認めるとき。
(2) 訴因・罰条の追加・撤回又は変更を要するとき(ただし,訴因の変更に至らない起訴状の訂正を含まない。) (注1)。
(3)複雑な事実の取調べを必要とするとき(注2)。
(4) 100万円以下の罰金又は科料以外の刑を科すべきものと認めたとき。
(5)量刑について,検察官と著しく意見を異にするとき。
などの場合には,通常手続に移して審判しなければならない場合が多いであろう。
なお,略式手続の告知手続及び被疑者の申述書(法461の2の書面)に記載された事件名が,起訴罪名と相違するときは,明らかに誤記と認められる場合を除いては, 同様に解する。告知された事実と起訴事実の同一性を知ることができないばかりでなく,法461条の2の異議権が十分に行使されたかどうかが疑わしいからである(注3)。
(注l) 「訴因の変更をしなければならない場合は,略式不相当として通常手続によることになろう。」(昭30.6仙台高裁管内簡裁判事会同・刑裁資258号17ページ。訴因の撤回につき,佐藤文哉・大学双書刑事訴訟法Ⅱ549ページ,訴因の変更につき,岩瀬徹・新実例刑事訴訟法(Ⅲ)300ページ以下。なお,昭51.2東京高裁管内簡裁判事会同・刑裁資221号342ページ参照。) 「略式手続における訴因変更の可否及び要否」(「法曹」203号81ページ以下)
(注2) 「略式命令においても刑の執行猶予をすることができることはいうまでもないが, (法461),略式命令は,書面審理に基づいてすべきものであるから,被疑者を直接取り調べる必要があるときは, 『略式命令をすることが相当でない場合」(法463) として,通常の規定に従って審判すべきであると思う。」(昭30.12高松高裁管内簡裁判事会同・刑裁資140号343ページ)
(注3) 「略式手続の告知手続および被疑者の申述書(刑訴461の2の書面)記載の事件名が起訴罪名と相違する場合は,告知された事実と起訴事実の同一性を知り得ない。同一性を認め得るとしても,刑訴法461条の2の異議権が充分に行使されたと考えることはできない。したがって,略式不相当として通常の規定に従い審判をしなければならない。」(昭31.5仙台高裁管内簡裁判事会同・刑裁資258号5ページ)

岐阜市職員巡り、略式起訴不相当 簡裁、わいせつ事件で /岐阜県2018.08.18 朝日新聞
 担当する生活保護受給者の女性に対する強制わいせつ容疑で逮捕された岐阜市職員について、岐阜区検は17日、暴行の罪で略式起訴した。岐阜簡裁はこの処分を「不相当」とし、正式な裁判が開かれることになった。
 起訴状によると、容疑者は2017年5月から今年4月にかけて、40代の女性に岐阜市役所内で抱きつくなどしたほか、今年6月には、岐阜市内の30代の女性宅で、女性を抱き寄せるなどしたとされる。
・・・
岐阜市職員巡る略式請求不相当 暴行罪で簡裁
2018.08.18 岐阜新聞
 岐阜区検は17日、生活保護を受給する女性3人に無理やり抱きつくなどしたとして、強制わいせつ容疑で逮捕された容疑者を暴行の罪で略式起訴した。岐阜簡裁(林道春裁判官)は同日、略式請求を「不相当」と判断し、正式裁判を開くことを決めた。
 起訴状などによると、2017年5月12日ごろ、岐阜市役所で同市の無職女性(44)に抱きついたり、今年4月10日ごろ、同市内のマンションの階段で抱き寄せたりした。また今年6月14日、同市の無職女性(34)の自宅で女性を抱き寄せたり、手を握ったりしたとされる。
被告は逮捕時、肩を抱いたり、手を握ったりする行為を認めた一方で、「下心はなかった」などと供述していた。
 岐阜地検は、同市の無職女性(35)の自宅で背後から女性の胸をもむなどした強制わいせつの罪については不起訴処分とした。17日付。
・・・
岐阜市職員の略式不相当 わいせつ行為、正式裁判へ
2018.08.18 共同通信 
 岐阜区検は18日までに、生活保護を受給する岐阜市の女性にわいせつな行為をしたとして、強制わいせつの疑いで逮捕された容疑者を暴行の罪で略式起訴した。岐阜簡裁は「略式不相当」と判断し、正式な裁判が開かれる。17日付。
 起訴状によると、昨年5月~今年4月ごろ、市役所内や自動車内などで無職女性(44)に抱きつくなどし、今年6月14日には、無職女性(34)の自宅で女性を抱き寄せ、手を握ったとされる。岐阜中署によると、被告はケースワーカーとして2人の女性を担当していた。
 また岐阜地検は、被告が同じく担当していた無職女性(35)に対する強制わいせつ容疑については不起訴処分とした。処分理由は明らかにしていない。

逮捕報道